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パンデミック後の危機:アメリカが負う心理的代償

パンデミック後の危機:アメリカが負う心理的代償

【ブログ投稿】
パンデミック後の危機:アメリカが負う心理的代償

レーザ・モガダム氏(大塚製薬ポピュレーションヘルス&カスタマーエンゲージメント部門シニアディレクター)

※本記事は、米国研究製薬工業協会(PhRMA)米国本部が、現地時間2020年6月16日に米国本部ウェブサイト内のブログ“the Catalyst”で発表されたレーザ・モガダム氏による投稿を日本で抄訳したものです。

私たちの業界と医療制度が直面する様々な問題に関する議論は、現在の課題解決のために極めて重要であり、“the Catalyst”では、患者さんや医療関係者をはじめ様々なゲストからの投稿を歓迎し、彼らの視点や意見を分かち合う努力を続けています。
本日は、大塚製薬ポピュレーションヘルス&カスタマーエンゲージメント部門のシニアディレクターのレーザ・モガダム氏(薬学博士・経営学修士)からの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がメンタルヘルスに及ぼす影響についての投稿を紹介します。

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックによって社会が麻痺状態に陥る中、手探りで歩むしかない私たちに対して、より恐ろしい破壊力を秘め、そして既に爆発寸前の域にまで達している別の危機が急速に近づいてきています。それは、パンデミック後のメンタルヘルスの問題です。

今回のパンデミックによる途絶えることのない恐怖、社会的孤立、心理的トラウマといった要因から人々が受ける心理的・肉体的ストレスに関連した様々な問題は、これまでにも米国中で報道されてきました。そして、メンタルヘルスへの破壊的な影響を特に強く受けているのが、パンデミックの最前線で患者さんの治療を担う医療従事者たちと言えるでしょう。

ンタルヘルスへの人々の関心は以前より高まっていますが、パンデミック収束の後にもこれまでに経験したことのない課題に直面することが想定されるため、そのための備えが必要不可欠です。医療の最前線で見られる危機をより広く社会全般に当てはめてみた場合、そこから何を学ぶことができるでしょうか? 私たち、特に医療業界のリーダーにとっては、今こそ一旦立ち止まって「メンタルヘルスを回復させるためサポートを持続的に提供する」という行動に軸足を移すためのよい機会と捉えるべきです。

平時においても、緊急処置室の医師や医療従事者たちはバーンアウト(燃え尽き症候群)になりやすい傾向にあることがデータによって示されています。最前線で対応に追われる多くの医療従事者たちにとって、新型コロナウイルス感染症の危機は、この問題をさらに深刻化させました。医療従事者たちは自分自身がコロナウイルスに感染するかもしれないという極めて現実的な不安と闘いながら、家族や友人を病気から守らなければならない、という精神的負担がのしかかっています。彼らの張り詰めた緊張の糸は以前にも増して切れやすくなり、“従来の”バーンアウトの状態を超えつつあるのです。

私たちは実際に、ニューヨークの医療関係者の自殺件数が増加するなど、かつてないほどの健康への負の影響を目の当たりにしています。また、カイザーファミリー財団の調査によれば、アメリカ人の半数近くが新型コロナウイルス感染症によってメンタルヘルスを害されているという報告があります。ここで問われているのは、将来のパンデミックに備え、精神的負荷を和らげるセーフティネットの構築を目的とした支援と資源を提供するために、私たち製薬業界は何をしたらよいのかという問題でしょう。

これまでの対応は必ずしも迅速とはいえるものではありませんでした。医療従事者たちが自らを犠牲にして少ない睡眠で長時間労働を強いられる中、彼らの健康への配慮は不十分なものでした。平時における救急医療の現場などに見られるように、一時的に持ちこたえればよいのであれば、多くの場合は健康を維持することが可能です。しかしながら、新型コロナウイルス感染症によって状況が一変した今、私たちには一体この生活がいつまで続くのか、見当もつきません。最前線で対応にあたる医療従事者たちは、これまでなかったほどの長期間にわたる危機管理を強いられているのです。私たちの生活の大部分がバーチャルの世界に移行した今、米国の一般的労働者の多くが、同様の状況に置かれている傾向にあります。

このニューノーマルにおいて生活を再構築することを優先したため、健康の問題は後回しとなりました。仕事と家庭をかろうじて隔てていた境界線はもはや存在しません。これはとても深刻なリスクであり、その結果として「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」や「鬱(うつ)」、「自殺」といった、これまで医療従事者の間で散見されていた問題が、一般においてもさらに深刻化することとなるでしょう。今この状況だからこそ、短期的な対処法ではなく、長期を見据えた支援体制へと移行すべきです。肉体的・精神的な健康を持続的に維持することを奨励し、それを実現するためのリソースへのアクセスを提供し、人々がメンタルヘルスを維持できるようにするべきです。

手始めとしては、メンタルヘルスの基本的ニーズが満たされるようになることを目指すべきでしょう。現行の財政支援策においてメンタルサービスに割り当てられた予算はごくわずかで、十分なサービスを受けられない人々をさらに苦しめています。最優先課題として直ちに取り組む必要があるのは、ホットラインや遠隔医療サービスなどにより、行動保健学の専門家の認知度を高め、彼らへのアクセスを向上させることです。いずれ、メンタルヘルスの疾病の増加に備えなければならなくなることは確実なのですから。スクリーニングへのアクセスを拡大し、遠隔医療によって受けられるサービスの質を向上させることに加え、連邦及び州レベルの財政支援も、将来に備えるためには不可欠でしょう。コロナ禍以前の“ノーマル”に戻ることはないかもしれませんが、やがて訪れる危機をむしろチャンスと捉え、最も脆弱な人々がこれまで以上のメンタルヘルスケアを受けられるようにすべきです。

原文はこちらからご覧ください。
https://catalyst.phrma.org/guest-post-a-post-pandemic-crisis-the-mental-toll-on-america